コレクション紹介《ロマンティック・バレエ》

パ・ド・キャトルを踊るマリー・タリオーニ、カルロッタ・グリジ、ファニー・チェリート、ルシル・グラーン(リトグラフ 手彩色/1845年頃)

ロマンティック・バレエ

19世紀半ば、ロマン主義文学・絵画の流行を背景として確立したバレエのこと。バレエにおいても、ロマン主義文学で扱われたような、この世でない世界や異国情緒溢れる遠い国を舞台とした物語が題材として好まれ、舞台に上げられました。そのような作品では、妖精や悪魔といった人間以外の役の表現に、ポワントの技術が非常に効果的だったのです。私たちがバレエと聞いて真っ先に思い出される白いチュチュにポワント(つま先立ち)という様式が確立したのはこの頃です。
今日、ロマンティック・バレエの開始点とみなされているのは1831年の「悪魔のロベール」(このうちの一場面がフィリッポ・タリオーニによって娘マリーのために振付けられた)ですが、その流行を決定付けたのは翌年の「ラ・シルフィード」でした。この作品でマリー・タリオーニは“ロマンティック・チュチュ”と呼ばれる膝下丈の釣鐘型のスカートをはじめて用い、題名の森の妖精をポワントで軽やかに幻想的に舞って一世を風靡しました。彼女の最大のライバルは妖艶さと闊達さが魅力的で「カチューシャ」を得意としたファニー・エルスラーでした。
以降、女性ダンサーたちが技を競い合い、1830〜40年代にロマンティック・バレエは最盛期を迎えます。彼女らのダンスに魅了された観客たちは贔屓のダンサーを目当てに劇場に通い、そのファン同士のライバル心もダンサー同士に負けないほどでした。人気の中心はタリオーニ、カルロッタ・グリジ、ファニー・チェリート、ルシル・グラーンの4人で、4人のためにジュール・ペローが振り付けた「パ・ド・キャトル」(1845)はロマンティック・バレエ時代の最高潮を飾りました。しかしながら1870年「コッペリア」上演の頃になると、もはやダンサーも振付家もこれといった才能あるものが現れず、バレエ界の中心は次第にロシアへと移っていくことになります。

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